2009年10月27日火曜日

これはあいつの物語だ

大丈夫…今は授業中だしここなら誰も来ないから…、うん、愛している…。そして近づいていく唇…。

次の瞬間思いもよらないことが起こった、僕たち2人の後ろの扉が思い切り開いて一人の男が勢いよく入ってきた!僕は彼と目が合う、彼は少し驚いたようだったがわずかのうちに平静を取り戻し、鞄を置き、無意味そうに携帯電話を操作した後一度教室から出て行った、僕たちは7階の教室を後にした…。





以上、今日こんなことがありました。実際に一行目みたいなことがあったかどうかは分からないし、本当は仰角8度で顔を近づけてただけかもしれない。もう言うまでも無いけど扉をバイーンってなるレベルで思いっきりブチ開けて大股で入ってきたのが僕ね。前の授業が早く終わったから哲学の教室に移動したらこれ、マジでマジでキスする5秒前だった。っていうかここ学校ですよ。

まあそれだけの喜劇なんだけど、とにかく僕はこのとき僕の人生の中で初めて自分が脇役だった。自己中な見方じゃなくて近代以降の人間なら我思うゆえに我があって人生の主役は自分で、寝てても他の奴が目立ってても他人の気持ちに深く共感しても一人称は当然自分だと思うんだよ。
でもあの瞬間は違った。仮にあのどちらかが僕の知り合いだったりしたらこれはディープなラブストーリーなのかもしれないけど、あれはどう考えてもスラップスティックだった。つまり大切なのはあの瞬間扉が開くことで入ってくる奴は誰でも良かった。それが僕だったのはもう運命としか言いようが無いし、少し違えば次に教室に来た哲学の講師だったかもしれない、とにかくあの時僕はあの2人の人生のモブだった。それをあの瞬間彼の視点から理解した、彼と彼女の焦燥、不愉快、羞恥、憎悪の織り交ざった感情を主観で理解したと言い切れる。

もう1つ、僕は名前も知らないけれど行為を記憶している人が一体何人居るだろうか?名前を忘れてしまった人ではなく、店員や職員のように会う必要があった人でもなくただ行為だけを記憶している人をすばやく思い出すことが出来ない。意識しすぎかもしれないけれどもしも彼と彼女の人生が映画だとしてそのエンドロールがあるとすれば最後の方の一列に3人位クレジットされる部分に僕の名前が載るのではないだろうか。名も無き脇役「扉を開けて入ってきた男」として会うはずの無い他人の運命に入り込んだのを感じずにはいられない。なんだか上手くまとまらないけど貴重な経験だったと言うか、あえて何か言うとすればちくしょう死ね、位しか思い浮かばない。